【REVIEWS】Paramore – Paramore
Released:April 09, 2013 – Fueled By Ramen / Warner Music Japan
Paramoreのソングライティングの要であったFarro兄弟が、バンドを去ったのは2010年のこと。それから、残された3人のメンバーで制作された4枚目となるアルバムParamore。17曲、64分に及ぶ大作である。
アルバムの冒頭を彩る “Fast In My Car “は、エレクトロの要素と90年代のギターロックのヴァイヴをふんだんに取り込んだ楽曲と言えるだろう。まさにバンドが得意とするParamoreらしいキャッチーなメロディーである。”Been through the ringer a couple times/I came out callous and cruel/And my two friends know this very well/Because they went through it, too”という歌詞からは、ここ数年のバンドの状態、つまりソングライティングの要を失い、ひどく辛い時期が続いたということが読み取れる。しかし、1stシングルである “Now” にあるように、” If there’s a future, we want it now.”と、前を向いて歩いて行こうという確信が読み取れる。このアルバムからは、2009年リリースの「Brand New Eyes」のようなバンドの内にこもった様子は感じられない。ここにあるのは間違いなくバンドが前を向き、そして新たに何かを掴もうとしている姿である。
プロデューサーであるJustin Meldal-Johnsen (M83、Neon Treesのプロデュースで知られる)の働きも、かなり大きいだろう。これまでのParamoreのサウンドを保ちつつ、そこに新たなエッセンスを加えることに成功しているからだ。アルバムに収録されている中でもっともキャッチーな “Still Into You” を聴けば、それは間違いなくParamoreであり、より進歩した新たな姿を感じ取ることが出来る。そのコーラスは中毒性があり、いつまでも頭の中で響き続け、何よりもフロントマンのHayley Williamsの伸び伸びと自由に歌うヴォーカルが魅力的だ。また今までになかったエレクトロサウンドを取り入れている点も、間違いなく今年を代表する楽曲になると感じさせてくれる。これらは、プロデューサーの影響が見事にParamoreの持つセンスと合致して、バンドに新たな方向性を導きだした結果と言えるだろう。
事実、この魔法はParamoreの魅力をより輝かせるものとなっている。楽曲 “Ain’t It Fun” は、今までになかったニュージャックスウィングのエッセンスがちりばめられ、ゴスペルのコーラスはWilliamsのヴォーカルをよりソウルフルに引き立てている。また “(One Of Those) Crazy Girls” は、映画「すべてをあなたに/原題: That Thing You Do!」で流れているような60年代のポップロック調に仕上がっている。生意気な歌詞も別れた恋人の心情を歌っており、それもまた面白い。今までに、ここまでのプライヴェートな感情を歌詞にのせることもなかったからだ。”Hate To See Your Heart Break” はソフトなロックバラードだ。この楽曲はFleetwood Macの名曲 “Landslide” に続く次世代のバラードとなるだろう。ストリングスのアレンジも素晴らしく、どこか母親の温もりに近いような郷愁を感じさせてくれる。ここまでの素晴らしい音楽を生み出す潜在能力が、Paramoreというバンドにはあったのだ。そして、それはParamoreが新たなレヴェルへと到達したという意味でもある。この事実は、今作に限らず、未来のParamoreの作品にも大いに期待が持てるということであろう。
作品の最後を締めくくる未来というタイトルの “Future” は、Jimmy Eat Worldの “My Sundown” を連想させるようなアコースティックギターの優しい音色のアプローチから始まる。そして3分30秒あたりから、その流れは一気に変わる。ギターのディストーションのノイズが、押し寄せる雪崩のように楽曲を包み込んでいくのだ。“I’m writing the future… We don’t talk about the past”という未来だけを見つめている内容の歌詞も印象的だ。その後、音がフェイドアウトして楽曲が終わったかと思うと、再びギターのディストーションの波とシンバルの音が最後まで続く。この楽曲はまさにライブハウスで観ることが出来るようなロックバンドのライブに近いものがあるだろう。フロントマンであるWilliamsが先にステージを去り、残りの演奏をバンドメイトが続け、やがてその幕が閉じられる。そういった風景が目に浮かぶはずだ。この楽曲こそ、今のParamoreを象徴するものだろう。バンドの高いモチヴェーションにクリエイティヴな態度、何も怖れることなく自らの個性を貫き通す意思、多くの経験を通して大人へと成長を遂げた彼らのすべてが凝縮されているのだ。そして今Paramoreは、現在のアメリカを牽引するロックバンドのひとつとなろうとしている。
テキスト: Scott Heisel
翻訳: Ken-Ichiro Arima/有馬健一郎
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