【FEATURES】東京発ニューメタルコアバンドovEnola, 1stアルバム「Left Behind」インタビュー
“ovEnola(オヴェノラ)”という名前を記憶に留めておくことを強く勧めたい。2016年に結成されたメタルバンドovEnolaは、90年代にシーンを席巻したニューメタル、インダストリアルなどの要素をメタルコア/デスコアなどのモダンミュージックと融合させアップデートさせた驚異的なサウンドを誇る。
8/19に満を持してリリースとなる1stアルバム「Left Behind」は、バンドの確かな実力と将来性を感じずにはいられない作品だ。また、東京発デスメタルバンドAbort MasticationからZUHO、海外からはタイのメタルコアバンドANNALYNNからBON、カナダのプログレッシブメタルバンドSpiritboxの女性ボーカリストで元IwrestledabearonceのCourtney LaPlanteがゲスト・ボーカルとして参加するなど話題性も十分であり、2020年リリースの作品群でも要注目の内容だ。ovEnolaの実像に迫るべく、基本的なことから4人の音楽的背景、そして今作「Left Behind」についてメンバーに聞いた。
“SlipKnoTのファースト・アルバムを初めて聴いたときの感動を再現したいという気持ちで作りました”
──まず、はじめにファースト・アルバム「Left Behind」を聴いて、圧倒的なクオリティに驚きました。作品について詳しくお話しを伺いたいとおもいますが、バンドの基本的な質問から始めさせてください。
Yuto:よろしくお願いします。ベースのYutoです。
Kneeya:ボーカルのKneeyaです。
Satomi:ドラムのSatomiです。
Anzai:ギターのAnzaiです。
──バンド名ovEnola(オヴェノラ)の由来を教えてください。
Kneeya:検索する時のことを考え、造語にしたいと考えました。そこで”of”の変型である”ov”と、人名である”enola”を組み合わせました。
Yuto:バンド名に特に深い意味はありません。オリジナリティとシンプルさと語呂の良さが成り立っているものを意識してつけました。
──Kneeyaさんは、Sailing Before The Wind(以下、SBTW)のボーカリストだったことは存じ上げていますが、他のメンバーはovEnolaを結成する前、どのような活動をしていたのでしょうか?ovEnola結成までの経緯も含めて、詳しく教えていただけますか。
Satomi:2014年当時、DEAD HORSE PAINTというメタルバンドをやっている時にサポートメンバーとしてSBTWに加入したタイミングでKneeyaと知り合いました。
Anzai:自分はSBTWが始動したのと同時期にメタルコアバンドをやっていて、その後しばらくはConcealmentsというバンドで昨年まで活動していました。KneeyaはSBTWが始まった頃からの知り合いでした。YutoとSatomiはバンド活動しているうちに知り合った記憶です。
ovEnolaは、前任メンバーが抜けたタイミングでKneeyaとYutoに声をかけてもらって加入しました。当初はベースでという話だったのですが、自分はギターしか弾けないのでそれならということで今に至ります。
Yuto:2010年頃ころからインターネットで自作の音楽をアップしていて、そこでボーカルのKneeyaと知り合いました。以降も、ソロで音楽活動を続けていて年に数回ほど自主制作のCDを出したりしていたのですが、ちゃんとバンドとしての活動もしてみたいと思ったときにちょうどKneeyaと話す機会があってovEnolaを始めるに至りました。
あとはバンド活動ではないんですが、同時期にImperial Circus Dead Decadenceというメタルバンドのライヴサポートをやっていました。ovEnolaを始めとした自分の音楽に専念したかったので、サポートは2020年の1月に辞めました。
──皆さんは、どんなジャンルやバンドを聴いて育ちましたか?また、最近聴いているバンドがあれば是非教えてください。いまのovEnolaのスタイルに影響を与えたバンドはいますか。
Anzai:中高生の頃からHelloweenやIron Maidenなど、ちょっと古めのHM/HRを聴き始めて、Children Of BodomやIn Flamesがアメリカっぽい音楽をやり始めた時期にAs I Lay DyingやKillswitch Engageを知り、この手のジャンルを聴くようになりました。ハードコアはConvergeをきっかけに周辺のバンドも聴くようになりました。メタル以外ではL’Arc~en~CielとLUNA SEAがずっと大好きです。最近のリリースだとPortrayal of GuiltやInfant Islandが衝撃でした。
Kneeya:一番意識しているのは”SlipKnoT”です。このバンドを始めた当初から、Nu-metalをモダンに昇華した音楽というのを意識しています。よく言われるNu-metalcoreがこれにあたると思いますが、自分たちのオリジナリティとして、インダストリアルであったり、トラップであったり、別の要素を入れるようにしています。
Satomi:中高生のときはELLEGARDENやONE OK ROCKを聴いていました。当時からバンドはやっていましたが、メタルのメの字も知らない青春時代を送って来ましたね。今でこそ少しは聴きますが、このバンドに僕が持ち込んだ音楽の影響はほぼ皆無です。
Yuto:小中学生のころに父親の影響でTHE BEATLES、LED ZEPPELIN、PINK FLOYDなどの洋楽のロックを聴き始めて、そこからヘヴィメタル、パンク、ハードコアなどを聴くようになりました。それからは、インディー、オルタナ、ポストロック、エレクトロニカ、チル、アニメソングなどとりあえず何でも聴いていました。
最近よく聴いているバンド…ではなくてアーティストですが、坂本真綾さんのシングルコレクションがリリースされたのでずっと聴いています。メタルバンドのリリースだとMake Them Sufferのアルバムがすごくよかったです。
──結成が2016年とのことですが、今作がリリースされるまでの4年間は、どんな活動をされてきましたか。
Yuto:2018年に1枚目のEPがリリースされるまでは、とにかく曲作りをしていました。ライヴ活動よりも先に音源とMVをリリースしたいと思っていて、且つそれがしっかりと作り込まれたものであるべきだと考えたからです。
2019年の5月に当時のベースとドラムが脱退することになり、現ギターのAnzaiと現ドラムのSatomiが加入し、当時ギターを弾いていた自分がベースにスイッチしました。
Kneeya:ライヴの数自体はかなり少なかったと思います。意識的にやった部分もありますが、単に機会が少なかったというのもあります。社会情勢次第ですが、今後はもう少しライヴの機会を増やしていきたいと個人的には考えています。
──ひと足早く作品を聴かせていただきました。90年代~2000年代のニューメタルを見事にアップデートさせたバンドが日本から出てきたことにとても興奮しましたし、高い完成度を誇る作品からも刺激を受けました!かなり手応えを感じるアルバムになったのではないでしょうか?リリース直前の心境も聞かせてください。
Kneeya:今自分たちが出せるものは全て出したつもりです。これは楽曲に限らず、サウンド面や、アートワークであったり、MVであったり、関連するもの全てのものを含みます。自分たちがやりたいことを、明確に作ることのできる方々にお手伝いしていただき、期待以上のものができたと自負しています。
Satomi:本当に色んな人たちの力と努力と未来が、僕らのこの作品に込められています。僕らの音楽がひとりでも多くの人に届いて欲しいし、響いて欲しい。何か感じてくれればもっと嬉しいです。でも、僕らが今日まで音楽人として生きてきた証を残せる事が他の何よりも喜ぶべき事だと、僕は思っています。
この作品に携わってくれた全ての人に感謝したいです。ありがとうございます。
──ファースト・アルバムのタイトル「Left Behind」に込めた意味を教えてください。
Kneeya:先程申し上げた通り、このアルバムは今自分たちが出せるものを全て出しました。ただし、自分たちはここでは止まらない、あくまでこのアルバムはこの先を見据え、ここに置いていくもの、文字通り”置き去りにしていくアルバム”、という意味でこのタイトルをつけました。
──バンドは昨年、“The Wretched”、“Devastator” のMVを公開、シングルとしてリリースしていますね。その頃、すでに今作の制作にとりかかっていたのでしょうか?
また、2018年のEP「Death Wish」に収録されている “Noose”、“Blind” は、新たに録り直していますね。改めてアルバムに収録した理由はなんでしょうか。
Kneeya:“The Wretched”、“Devastator” に関してはアルバムからの先行シングルという扱いですので、作品は既に制作していました。「Death Wish」に関しては名刺代わりとして制作した意味合いが強く、この作品の音楽性を軸にライヴで実際に演奏して感じたものをアップグレードしていくのが前提でした。ライヴを通してアルバムに収録するのに相応しいものになったのが、“Noose” と “Blind” だったのでアルバムにも収録しました。というよりもアップグレードしたこの2曲を軸にアルバムを組み立てたという方が感覚的には正しいのかもしれません。
──制作するうえで苦労した点はありますか。また、新型コロナウイルスの感染拡大は、制作に影響しましたか?
Kneeya:苦労した点は個人的にはほとんどありません。というのも、メンバー含め協力していただいた方々の仕事が全てスムーズに進んだからです。改めて関係者の皆さんに感謝したいです。
コロナ禍はレコーディング期間と被ってしまったので、影響は大いに受けました。発売日に関しても5月から8月に延期になりました。その辺りはFabtoneの担当である宮西さんの素早い判断で結果的にはスムーズに進んだと思います。
Yuto:制作はスムーズだったのに、レコーディングもMV撮影も、終いには発売日も延期になってしまったのはかなり心に来ました…。キャンセルになってしまったライヴもありました。
──不穏な空気に包まれたオープニング・トラック “Daydream” から一気に爆発する “The Old Blood” への流れは何度聴いてもクセになります。また、個人的に今年リリースされたCode Orangeの傑作「Underneath」を彷彿とさせました。彼らのスタイルに共感する部分はありますか?
Kneeya:そのように感じていただけていればとても嬉しいです。“Daydream” から “The Old Blood” の流れは、SlipKnoTのファースト・アルバムを初めて聴いたときの感動を再現したいという気持ちで作りました。Code Orangeの「Underneath」は自分たちとやりたいこととかなり共通する部分が多いと思います。ovEnolaの楽曲でインダストリアルの文脈を提案しているのは自分なのですが、その要素を大胆に入れるという部分は大きな共通点だと思っています。
──作品全体を包みこむ怒りや闇を含んだボーカル、存在感のあるブリンブリンなベースは聴いていて痛快でした。影響を受けたミュージシャンがいれば教えてください。
Kneeya:ovEnolaを聴いて「ボーカルがすごく怒っている」と言っていただけることが多いのですが、自分の中では特別意識はしていませんでした(笑)。このスタイルのボーカルをやろうと決意したのは、SlipKnoTのCorey Taylorの存在が一番大きいです。その他にも、今回featuringしていただいたAbort MasticationのZUHOさんにも影響を受けました。怒りを直接的に表現するヴォーカルには影響を受けます。
Yuto:自分は作家性のほうが強く演奏者には疎いので、直接影響を受けたベーシストというのはいないのですが、サウンド面ではCane Hillのファースト・アルバムのベースサウンドにかなりの影響を受けています。
──緩急自在の “Noose”、“The Wretched” の奥行きのあるサウンドをはじめ、巧みにコントロールされた音質と音圧に圧倒されました。エンジニアの克哉さん(SLOTHREAT)には、何か希望など伝えましたか。また、どのようなやりとりをされたんでしょうか?
Anzai:音って言葉で表現するのが難しくて、うまく意思の疎通が取れないことも少なくないですが、彼は出したいサウンドへの理解が深く、スムーズにやり取りできました。「ここのリフはKillswitch Engageで!ソロはSUGIZOで!みたいな。また、彼はニュアンスを出すのがすごく上手いので、プレイ面でも彼のアドバイスをかなりもらいました。
Kneeya:MVと同じくEP含め、今までの作品は全て克哉さんに任せています。大まかにヘヴィに、ダークに、というような注文はしましたが、基本的には彼に任せています。やりとりはしょうもない、サウンド・クリエーションに関係ないことの方が多いです(笑)。
──“Rapture”、“Blind”、“Toxin” などからエレクトロの要素を効果的に取り入れているのが印象的でしたし、ドラマ性のある “Cry Me A River” は抜群のソングライティングのセンスを感じました。ソングライティングはどのように行っているのでしょうか?
Kneeya:作曲の過程はYutoがイチから作ったものに僕が口出しして完成させるか、または僕がアイデア出しをしたものをYutoが形にするかの2つのパターンがほとんどです。今後はいろいろな形を試していきたいと考えています。
Yuto:エレクトロの要素に関しては、「メタル+エレクトロ」みたいな受け取られ方をされないように、あくまで表現の延長線上にその音や展開が存在するようかなり気を使いました。
“Cry Me A River” は個人的にアルバム内で一番の自信作です。自宅でKneeyaと2人で作ったんですが、アイデアが次々と浮かんできて一晩で完成させて、全体通して聴き直したときに「これだ!!!!」と興奮したことを覚えています。
──作品をリピートで聴いていたのですが、最後の楽曲 “Toxin” から、再び “Daydream” へと繋がっていくような余韻が感じられてとても良かったです。
Yuto:それは意識していました!…というのは嘘ですが、Toxinは曲を作る前から最後のトラックになることが決まっていて「最後の曲はやっぱりカタルシスが欲しい」という僕の考えからシンセで終わる形にしました。それがうまいことイントロの雰囲気とマッチしてくれたのかな…と考えています。
──「Left Behind」は、3分台にタイトにまとめられたの楽曲が多いですね。これは意図したものですか?ギターソロを入れるという構想はありましたか?
Kneeya:これは意識したものです。自分たち自身がアルバムとしてフルで気持ちよく聴けるのが、10曲前後、30分前後と考えているからです。ジャンルにもよりますが、僕たちのようなジャンルで名盤と呼ばれるものはこの時間帯が多いように思います。
ギターソロは曲を作っている段階で自然に入れる形になりました。ギターソロを入れる前提として曲を作ったわけではないです。
──今作には3人のゲスト・ボーカルが参加しています。最初からゲストを入れるプランはあったのでしょうか。
Kneeya:少なくとも僕個人はfeaturingボーカルというものにテンションが上がってしまうので、最初からゲストを入れるプランはありました。
──日本からは、ZUHO氏(Abort Mastication, OZIGIRI)、海外からは度々来日しているタイのANNALYNNのBON、さらにカナダのSpiritboxからCourtney LaPlante(アイワーボの頃から個人的にも大ファンです!)が参加しています。どういう経緯で参加することになったのでしょうか。3人のゲストの個性が見事に引き出された楽曲だと感じましたが、ゲストを想定して書かれた曲なのでしょうか。また、3人には何か希望を伝えましたか?
Kneeya:ZUHOさんは僕の憧れの人で、以前からいつかゲスト・ボーカルをお願いしたいなと思っていたので今回依頼した際に快く引き受けてくれてとても嬉しかったです。
Yuto:ANNALYNNのBONは、Fabtoneの宮西さんに紹介していただきました。Courtneyに関してはエンジニアの克哉の提案でした。もともとそこのクリーンは自分かKneeyaが歌う予定だったのですが、「面白そう!」と思ってすぐ連絡を取ったら快く引き受けてくれました。
曲はゲストが決まる前に完成していました。自分たちのアイデアだけで出来上がったものに、協力者からのアイデア・エッセンスがさらに欲しいという意図でのゲスト参加です。なので特に要望は出さず、全員がイメージ以上の効果を曲に与えてくれました。最高です。
──“Rapture” はライヴでも間違いなく盛り上がる仕上がりですね!今後も、新型コロナウイルスが終息するまでは通常のライヴができない状況がしばらく続いていくと思います。配信ライヴなどの計画はありますか?
Kneeya:個人的に配信のみが定着することはないと思っています。もちろん、実際のライヴができないことの補助的な役割は果たすと思いますが、どうしても”映像コンテンツ止まり”という印象があります。今までの現場での”ライヴ”という言葉には、友達と会う、ついでに買い物をしてご飯を食べる、生の爆音を感じる、などいろいろなことが含まれていると思っています。正直、今のスタイルはその代替には成り得ていないと感じています。配信ライヴをやるにしても何かしらの工夫が必要だと考えています。
──油絵で描かれたような独特な世界を持ったアートワークもとても良いですね。手がけているのはどなたですか?また、どのような世界を表現しているんでしょうか?
Kneeya:井上五味葛太郎さんという方にお願いしました。ピカチュウの絵がツイッターで話題になっていた際に自分が一目惚れしてお願いしました。
“不快な空間に取り残された者”をテーマに井上さんの世界観で仕上げていただいて、とても気に入っています。
──メタルコアは以前から飽和状態だという意見があります。しかしその反面、August Burns RedやI Prevailなど従来のスタイルに新たな要素を果敢に加えて成功を収めているバンドも現れていますが、どうお考えですか?
Kneeya:現代のメタルコアという言葉の定義は非常に広く、曖昧だと考えています。ただし従来のメタルコアで良い作品を作るというのはとても難しいと思います。そんな中、毎回素晴らしい作品を作るバンドは素晴らしいと思います。
Anzai:メタルコアのテンプレートもすごい速さでアップデートされていますが、メタルコアに限った話ではないと思うので、ある種然るべき流れだとは思います。自分はどちらかと言うとメタルコアにこだわりがなくて、サウンドのフォーマットがメタルコアでも我々のバックグラウンドを上手く取り入れた楽曲を今後作っていけたらと思っています。
──コロナ禍のなか、先の見えない状況ではありますが、バンドの今後の予定などありますか?
Kneeya:音源をとにかく増やしていきたいと思っています。アイデアは溜まっているので!
──今後のovEnolaの活動には個人的にも注目したいと思っています。最後にNM MAGAZINEのリーダーの皆さんにメッセージをお願いします!!
Satomi:今後もチェックよろしくな!
──ありがとうございました!
Interview: 澤田 修
1. Daydream
2. The Old Blood
3. Noose
4. The Wretched
5. Rapture (feat.BON of ANNALYNN)
6. Blind
7. Cry Me A River
8. Mother (feat.Courtney LaPlante of Spiritbox)
9. Devastator (feat.ZUHO of Abort Mastication,OZIGIRI)
10. Toxin
ovEnola「Left Behind」
2020.8.19 In Stores
RADC-146 / ¥2,300 (w/o tax)
RADTONE MUSIC