【FEATURES】Hit The Lights来日インタビュー 〜もうバンドとしてのゴールを決める必要はない。今やっていることを最大限に楽しむ事こそが一番重要なこと〜
オハイオ州出身のポップパンクバンドHit The Lightsが約2年ぶりとなる来日を果たし、彼らの2ndアルバム「Skip School, Start Fights」を冠したツアー「Skip School, Start Fights Japan Tour」を実施した。 BACKDATE NOVEMBERやAIRFLIP、LEXTら日本のバンドも数多く参加した本ツアーでは、大阪、名古屋、静岡、東京では新宿・高円寺の計5公演を開催。メンバー自身も来日を待ち望んでいたとだけあって、終始ピースフルな空気に包まれたエネルギッシュなショウを繰り広げ、各会場において最高の時間を演出してくれた。いよいよニューアルバム「Summer Bones」もリリースされ、再び高い評価を得ているHit The Lightsだが、前作「Invicta」のリリース以降の道のりは、決して楽なものではなかったという。今回はそんなHit The Lightsのヴォーカル、Nick Thompsonにインタビューを実施し、アルバムの背景から歌詞に込めた想い、解散に危機にまで陥ったバンドが再び前進を始めた際のエピソードまで、すべてを語ってもらった。
“「Invicta」をリリースしてから、すごく辛い時期に突入してしまった。一時は解散も考えるくらいだったんだ。”
──Hit The Lightsにとって2年ぶりの日本となりますが、ツアーはいかがですか?
Nick Thompson(以下Nick):日本は大好きな国だから、ここに来られることができて本当に嬉しいんだ。2年も間があかなきゃ良かったのに!って、日本へ来て改めて思ったよ(笑)。前回のBEYOND [THE] BLUE TOURもすごく楽しかったからね。
──本ツアーにもBACKDATE NOVEMBERやAIRFLIP を始め、多くの日本のバンドが参加していますね。
Nick:うん!みんな素晴らしいショウをしていたよ。ONIONRINGというバンドはメンバーもライヴもとても面白かったな。あと、KEEP YOUR HANDs OFF MY GIRLのライヴもすごく良かったよ!
──今回はあなたがたの2ndアルバム「Skip School, Start Fights」を冠したツアーですが、このアルバムはHit The Lightsにとってどのような存在なのでしょうか。
Nick:特別な作品だね。「This Is A Stick Up… Don’t Make It A Murder」をリリースして、それまでヴォーカルをやっていたColinが抜けてから、9ヶ月くらい新しいヴォーカルを探していたんだ。俺がヴォーカルをやる、と決まるまで長い時間がかかったけど、俺たちは何があってもツアーや曲作りを続けていきたかった。その信念のもとに完成させたアルバムだったし、結果としてキッズからの反響も凄まじいものだったから、大きなターニングポイントになった作品だよ。それに俺自身もこのアルバムが出るまで、自分がフロントマンになって歌うなんて思ってもみなかった。何が起こるかわからないよね。
──ではニューアルバム「Summer Bones」についてもお伺いしたいと思います。今作は初めて、Stick To Your GunsやThe Relay Companyの作品も手がけたKyle Blackがプロデューサーを務めていますね。
Nick: 俺たちがUSで新たに契約を結んだPure Noise Recordsから、何人かプロデューサーの候補を上げてもらったんだ。その中に、Kyleの名前もあってね。もう長いことプロデュースをやっている人だと、その人のカラーが出てしまって、バンドの意見を取り入れる柔軟性が無い場合もよくある。でもKyleは新たなプロデューサーだから、そんな不安は一切ないところが良いと感じた 。彼は俺が大好きなComeback Kidのアルバムもプロデュースしていて、それも一つの大きなきっかけになった。Kyleは作品作りに対してすごくハングリーで、とてつもない熱意があるから、彼のおかげでこのアルバムを作ることができたと言っても過言ではないよ。
──Kyleとの制作過程はいかがでしたか?
Nick:俺たちが作った曲があまり良くなかったとしても、彼の手にかかると最高の曲に仕上がってしまうくらい、素晴らしいものだったよ(笑)。Kyleは才能に溢れているし、細かいところにも気を配る几帳面な性格で、自分の仕事に対してとても熱心なんだ。一方であれこれ要求したり、威張り散らすようなことも絶対にしなかった。レコーディング中はHit The Lightsの6人目のメンバーになったと言っても良いくらい、作品に対して大きく貢献してくれたよ。
──かなり順調だったんですね。
Nick:そうだね。実は今回はこれまでと制作のプロセスが違って、スタジオで曲作りを進めて行ったんだ。プリプロはカリフォルニアにある、Strung Outというバンドがよく使っているスタジオでやったんだけど、エアコンも窓もない小さな部屋で、毎日35度〜40度くらいになる暑い空間でね。みんなで汗だくになりながら毎日その部屋に集まって、12時間くらいかけてプリプロをしていた。その後はKyleのスタジオでレコーディングをしたんだけど、なんとさらに小さな部屋だった(笑)。そこで約3週間かけてトラッキングして、アルバムが完成したんだ。
──今作ではセンチメンタルなメロディや、ノスタルジックな音像が以前より色濃く描かれていますね。
Nick:実は俺とKevinが、アルバムの制作中にそれまでの恋愛が終わってしまったんだ。2人ともすごく傷ついたし、俺は家も引っ越さないといけなくて、どうしたら良いかわからなかった。すべてに対して不安な気持ちになっていたんだ。でも逆にいうと、そんな状況の中でも俺たちは何よりも良いアルバムを世に出したかった。最高の作品を作る、ということだけが、俺たちの中で唯一確実なことだったんだ。このアルバムを作ったことで俺たち自身もすごく救われたし、素晴らしい楽曲ができたことで自信にも繋がっていった。こうした辛い経験は避けて通れないこともあるし、先が見えなくてもどんどん前に進まなくちゃいけない、という状況にいたことも、この作品における一つのキーになったと思うよ。
──そうだったんですね……。
Nick:この経験は、Hit The Lightsにとして新たなステップを踏み出すのにも役立った。というのも、これまではどこまでも軽やかでポップなサウンドに、少しダークなテイストの歌詞をつけて、曲の内容までは軽くならないようにしてきた。でも今回はポジティヴなサウンドに、ポジティヴな歌詞をつけるように意識していたんだ。とは言え決して単純でつまらない内容にはしたくなかったから、バランスは考えた。状況が状況だっただけに、なかなか物事をポジティヴに見ることができなかったから、自分にとってもチャレンジングではあったけどね。今回は歌詞を書くことを通して、自分自身もとても良い物の見方ができたと思うよ。
──確かに、歌詞のテーマ性が少し変化したような印象を受けました。
Nick: たとえばラスト・トラックに “Old Friend” という曲が収録されているんだけど、これは俺たちが今までツアーで出会ってきた大事な仲間について歌っているんだ。でも友達だからといって、「俺たちの仲間に捧げるぜ!Yeah!」みたいな歌詞には絶対にしたくなかった。きちんと意味を成して、自分の気持ちをストレートに表現することのできる、内容のあるものにしたかったんだ。
──なるほど。今作ではHit The Lightsの武器である突き抜けるようなキャッチーさを根底にしつつ、歌い上げたくなるようなコーラスや疾走感溢れるメロディアスなサウンドが凝縮されていますが、音作りに関しては特に意識したポイントなどあるのでしょうか。
Nick:今回は俺が作ったパートも多かったし、あえて多くなるように意識したかな。俺は80年代に流行したパワー・バラードがすごく好きなんだけど、自分が曲を書く時はその要素が前に出て来ていると思う。だからこそ今回のアルバムにあるような、アンセミックなフレーズが出てくるんだと思うよ。
──収録曲はまさに耳に焼き付くアンセミックな楽曲ばかりですが、 “Fucked Up Kids”、“The Real”、“No Filter” の3曲をアルバムからの先行トラックに選んだ理由を教えていただけますか?
Nick: どの曲もすごく良い出来で、思い入れも強い曲ばかりだから、バンドとして初めてシングルカットする曲を決められなかったんだ。だから先行トラックを決めるには、いったん自分たちの考えを切り離して客観的に捉えないといけない、と思った。幸いPure Noise Recordsとは家族のような信頼関係を築くことが出来ているから、今回は彼らにシングルカットする楽曲を選んでもらったんだ。他の人がアルバムを聴いてどう思うかも知りたかったし、彼らと俺たちとは違ったものが見えているはずだからね。結果としてアルバムを代表するエネルギッシュでキャッチーな曲を、みんなに聴いてもらえたと思うよ。
──一方でタイトル・トラックとなっている “Summer Bones” は、アコースティック・ギターをフィーチャーした、美しく哀愁漂う楽曲に仕上がっていますね。
Nick:この曲は、Omarが作った綺麗なギターのヴァースから生まれて行ったんだ。American Footballというバンドの美しいサウンドを連想させる、素晴らしいギターの旋律だった。その時点で最初のワンフレーズが出来上がっていたから、そこにコーラスをつけていき、今の形になっていった。この曲を作っていくと同時に、Omarの頭の中に「Summer Bones」という言葉が浮かんだと話してくれたんだけど、それ以降、俺の頭からもその言葉が離れなくなってしまってね。その後アルバムが完成してタイトルを決めるときに、「Summer Bones」はどうだ?って提案したら、みんなも同じように感じていたみたいで、すんなりと決まったんだ。
──「Summer Bones」という言葉の意味について、詳しく伺っても良いですか?
Nick:もちろん!このアルバムは夏に作っていたし、俺たちは制作中、作品に対してこの身も何もかも、すべてを捧げた。だからこの言葉がぴったりだと思って、「Summer Bones」というタイトルをつけたんだよ。
──その制作期間中の様子も含めたドキュメンタリー・ムービー、「Skelton Series」をYouTubeにアップしていましたね。
Nick:音楽系の映像をメインに手がけているKyle Thrashという人がいるんだけど、彼は俺たちの友達でね。2011年に一緒にツアーを周り、ドキュメンタリー映像や “Earthquake” のミュージック・ビデオを撮ってくれたりして、だんだんと仲良くなっていったんだ。その後もずっと俺たちとKyleは良い関係でいたんだけど、Hit The Lightsは「Invicta」をリリースしてから、すごく辛い時期に突入してしまった。一時は解散も考えるくらいだったんだ。
──解散まで考えるほどだったとは……。
Nick:うん、かなりシリアスな状況だった。だからその時のバンドの様子をKyleに撮ってもらい、Hit The Lightsとしての最後のDVDにしようとしたんだ。 撮影期間中もとても辛くて、バンド史上最も暗い時代だったよ。その後バンドとしてはしばらくオフを取ったんだけど、Kyleとのやりとりは続いていた。そして心境や状況も変わり、また新たな作品を作ろう、と決まったときに、Kyleが前に撮りためていたドキュメンタリー映像があるよ、と言ってきてくれたんだ。彼はこの映像を公開して、普段は見えてこないバンドの側面や、バンドとはどんなものなのかを色んな人に見てもらいたい、と熱心に語ってくれた。俺たちはKyleを信頼しているし、彼は本当に才能に溢れた監督でもあるから、ぜひやってみよう、と即決したんだ。
──Hit The Lightsの歴史や背景が映し出された、濃厚な内容になっていますね。
Nick:このアイディアはすべてKyleが提案してくれたから、彼には感謝してる。見てくれたみんなも楽しんでもらえたみたいだから、本当に嬉しいよ。Kyleは “Life On The Bottom” のミュージック・ビデオも作ってくれたんだけど、今回もまた素晴らしい作品に仕上がったからチェックしてみてほしい。
──では最後に、Hit The Lightsとして今後達成したいと思う目標やヴィジョン、そしてゴールがあれば教えてください。
Nick:実は、もうバンドとしてのゴールを掲げる必要はないと思っているんだ。あれこれと考えたり過去を振り返るのはもうやめにして、今やっていることを最大限に楽しむ。これこそが、一番重要なことなんだよ。こうしてバンドを続けられて、日本にも来ることができて、今最高の時間を過ごしている。この瞬間は俺たちにとって貴重なものだからね。現時点では「Summer Bones」のリリースが待ちきれないし、俺がHit The Lightsの作品の中で一番好きなアルバムをみんなに聴いてもらえるのが嬉しくてたまらない。この先USツアーもあるし、夏以降はまた曲作りもして、新たな作品も作って……という目標はもちろんあるけど、焦ったりせず、少しずつ進んで行きたいと思っているよ。
Hit The Lights「Summer Bones」
In Stores Now
KICK ROCK INVASION / EKRM-1304 ¥2,000(w/o tax)
Interview / Translation:Leyna Miyakawa