【FEATURES】Andrew McMahonライヴレポート@ 9/1 渋谷 CLUB QUATTRO
いまからおよそ15年前、米国西海岸・オレンジカウンティから現れたSomething Corporateのボーカリスト兼ピアニストとして突如ロック・シーンに姿を現したアンドリュー・マクマホン。初来日の2002年9月から13年という月日が流れた。一時は急性リンパ性白血病を患い死の淵に立ちながらも無事に生還、彼は今日も音楽にメッセージを乗せて我々に名曲を届けてくれている。今夜のライブはSomething Corporate、Jack’s Mannequin、そして昨年のAndrew Mcmahon in the Wilderness名義のソロ作品からの楽曲がプレイされ、まさにアンドリュー・マクマホンの音楽人生を総括するようなライブになった。
9月1日、開演5分前の渋谷クラブクアトロ。ステージ上には中央と左右の3カ所にキーボード、左側(下手)にはベース、後方にドラムが配置されている。フロアは残念ながら満員御礼状態とはいえないものだったが、既に天才シンガーソングライターの登場を待ち侘びるファンの期待と緊張が伝わってくる。
定刻19時、客電が落ちると同時に下手側からオーディエンスに向かって右手を振りながら笑顔のアンドリューが登場!昨年の作品からの楽曲“High Dive”で幕を開ける。「この声を待っていた!」という想いが溢れる。女性の割合が多いフロアでは、アンドリューの細かな動きさえも見逃してはならないという想いで、彼の一挙一動に目を見張る観客が多いように感じた。
アンドリューが「How Are You Feeling Out There? コンバンハ、トウキョウ!」と声を聞かせるとアタック音の強いフレーズを弾きはじめた。大歓声に迎えられながらJack’s Mannequinの名盤『Everything In Transit』から“Dark Blue”が披露される。そして間髪入れずソロ作のオープニングを飾る“Canyon Moon”へと続き4人は美しいメロディを鮮やかに紡いていく。興奮を抑えられず、マイクを手に椅子から立ち上がり歌いだすアンドリューに温かい眼差しを送るのは3人のサポートメンバーだ。ステージで独特な存在感をみせる髭モジャのキーボード・プレイヤーZack Clarkは、コーラスでもサウンドに奥行を生んでいる。ベースと鍵盤を操るのは童顔のマルチ・プレイヤーMike Wagner、そして常に笑顔でドラムを叩くのはJack’s Mannequin時代からのメンバーJay McMillanだ。アンドリューを含む3人のキーボード・プレイヤーが奏でるリズム・メロディ・ハーモニーは重厚で安定感も抜群、その心地よさに身体が揺れる。今日はアンドリューの長きにわたる音楽活動から幅広い選曲で聴かせてくれるようだ。アンドリューはピアノを離れ、マイクを片手に観客と触れ合いながら東京に戻ってこられたという喜びを全力で伝える。この夜、彼が披露した日本語は「アイシテル、トウキョウ!」、「タノシンデル?」といったシンプルなものだが、音楽と同様に誠実な彼の言葉からは心の底から伝えようとしていることがわかる。
この日のハイライトのひとつ“Holiday from Real”をプレイする直前、“新しいチャンスを手に入れようとすることで人生はもっと良くなるんだ”と語っていたアンドリュー。バンド活動に疲れ、現実からただ逃れようとしていた初期Jack’s Mannequinの楽曲が、また違った味わいをもったものになっている。
ライブはいよいよ佳境に入る。アンドリューにとって特別な一曲“Swim”が弾き語りで披露された。この曲は彼自身が白血病再発の恐怖と闘っていたときにかかれたものだ。
【大切なもののために泳げ!どんなに辛くても生きるんだ】というメッセージは死を覚悟した彼の言葉だからこそ伝わってくる。苦悩に満ちていた当時の彼と、難病を乗り越えて再びスポットライトを浴びながらマイクに向かう彼の姿を重ねると思わず胸がいっぱいになった。【白血病を克服したことで、毎朝目が覚めて自分が息をしていることを感じるときや、毎晩寝る前にも自分が生きていることに感謝するようになれたんだ】と4年前のインタビューで語っていたアンドリューのメッセージが蘇る。続いて披露された“Punk Rock Princess”のピアノ・バージョンは原曲の雰囲気を変えてメロディを際立たせたアレンジで大いに惹きつけられた。
ポップで明るい楽曲とシリアスな曲が怒涛のごとく押し寄せるライブも、終盤にさしかかる。アンドリューが妹からの骨髄移植手術を行った2005年8月23日に本国アメリカで発売された『Everything in Transit』からのキラーソング“La La Lie”がはじまる。アンドリューのブルース・ハープで始まり、会場が一体となって起こるラララの大合唱は感動の瞬間だった。本編最後は、Something Corporateの“I Woke Up in a Car”で締め括られた。
大喝采の中、ステージを去りゆくメンバーだったが1分もせずにステージに再登場!観客の熱いアンコールに“The Mixed Tape”で応える。そして最新作から愛娘セシリアへのラブソングであり、歌詞には日本への愛情も込められた“Cecilia and the Satellite”ではフロアを覆い尽くすパラシュートが登場!パンクロックバンドで世界中を周り、難病を克服、現在は愛娘にも恵まれた彼の波乱万丈の人生をパラシュートがカラフルに染め上げた美しい光景が目の前に広がる。アンコールの最後はソロEPに収められた“Synesthesia”で終演を迎えた。
時計に目をやると21時23分。あっという間に感じるパフォーマンスだったのと同時に、次回の来日が既に待ち遠しくなるようなライブだった。他にも聴きたかった楽曲は山ほどある(Jack’s Mannequinなら“I’m Ready”、“Crushin”、“My Racing Thoughts”。Something Corporate時代の名曲“Cavanaugh Park”もプレイされていない)。そんな少し名残惜しい気持ちでクアトロを後にしたファンも多かったのではないだろうか。しかし、凝った演出などに頼らず、アンドリューの情熱とクオリティの高い楽曲に魅了された今夜のライブはしばらく深い余韻をもたらしてくれるだろう。
父親になったばかりで多忙のアンドリューだが一刻も早い再来日を期待したい。彼には魂と美しいメロディを込めた音楽と、ポジティブなメッセージを伝えるピアノマンという使命がまだまだ残されている。
Andrew McMahon | 9.1.15
SHIBUYA CLUB QUATTRO | Tokyo, Japan
01. High Dive
02. Dark Blue (Jack’s Mannequin)
03. Canyon Moon
04. Ruthless (Something Corporate)
05. Halls
06. The Resolution (Jack’s Mannequin)
07. Driving Through A Dream
08. Holiday from Real (Jack’s Mannequin)
09. Maps For The Getaway
10. Watch the Sky (Something Corporate)
11. Swim (Jack’s Mannequin)
12. Punk Rock Princess (Something Corporate)
13. All Our Lives
14. La La Lie (Jack’s Mannequin)
15. I Woke Up in a Car (Something Corporate)
Encore:
16. The Mixed Tape (Jack’s Mannequin)
17. Cecilia and the Satellite
18. Synesthesia
ライブ中のMCでも協力を呼び掛けていたアンドリューが白血病や小児がんの研究を支援するために立ち上げたチャリティ基金『Dear Jack Foundation』のウェブサイトはこちら
http://www.dearjackfoundation.com/
Text:Osama Sawada
Photos:Nobuya Fukawa
Andrew McMahon In The Wilderness「Andrew McMahon In The Wilderness」
In Stores Now
Universal Music
UICO-1278 / ¥2,200(w/o tax)
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