【FEATURE】William Beckett x Artist vs Poet Japan Tour 2014 ライヴレポート@ 2/15 下北沢 ReG
BEYOND[THE]BLUE Tour 2012にてソロ名義となって初の来日を果たしたex.The Academy Is…のフロントマンWilliam Beckett、そしてBEYOND[THE]BLUE Tour 2010にて初来日したArtist vs Poetの再来日がKICK ROCK INVASION、BEYOND[THE]BLUEに携わる2人が新たに立ち上げたHB Sound Deliveryの招聘で実現した。東名阪で行われたツアーの中、今回は2/15(土)に開催された東京下北沢ReG公演をレポート。
まずこの日のサポートアクトのトップバッターLeylineの登場。カナダ出身のドラマーLandonが在籍する見た目のインパクトだけでなく、Blink-182辺りに影響を受けたであろう西海岸直系のメロディックをベースに、骨太なサウンドと疾走感だけでなくポストパンク的ダンサブルなリズムも取り入れたタイトな演奏で、トップにも関わらずまだ様子見な会場からは手拍子が起きる。この日に相応しいミディアムテンポの楽曲ではフロント三人の息のあったコーラスを聞かせ、ラストはメロディック全開のサウンドへ。終演後、普段パンクを聴かなそうな女性からも賛美の声があがっていたのも頷ける熱演をみせた。
続いては、BEYOND[THE]BLUE TOUR 2013公演でも熱演をみせたピアノを擁したギターロックバンドMy Last Ballad。Leylineと同じく2013年デビュー作リリース組だ。ピアノのキラキラとした旋律だけでなく、美しくもどこか切ないメロディーとメジャー感溢れたコード進行。パンクとかロックとかを除いても良いメロディーが詰まった楽曲は、コアなファンだけでなく初見オーディエンスの心もゆっくりと確実に掴んでいく。加えて清涼感だけでなく熱いMCやパフォーマンスでどんどんと引き寄せ、ラストの代表曲 “From Scratch” が終わると「もう終わっちゃった!」と残念そうなオーディエンスの声もあった程、エモーショナルなステージングであった。
海外勢二組の前を飾るのはSecondwall。SUMMER SONIC 2013にも出演を果たした彼女達も、待望の全国流通音源を2013年にリリースしている。海外からの影響を消化したサウンドながらも、日本語詩を加え、違和感どころか完全にこのバンド独自の世界観として確立。先日リリースツアーファイナル以来のLiveだったが、バンド側が感情を放出するからこそ見ている側にもその熱が伝わるんだなというのが良く分かるパフォーマンス。“君の世界を” や “ハロー”と いった代表曲を披露し、会場のヴォルテージをグングンと上げていく。どんどんとファンベースを拡大しながらも、いつまでも失われない等身大の人間くささがこのバンドの持ち味だろう。演奏終了後、William BeckettやArtist vs Poetを見にきていたであろう海外のオーディエンスが彼女達は何という名前のバンドかと日本のファンに質問していた。言語を飛び越え胸に突き刺さるパフォーマンスが証明された光景だ。
そして本ツアーのメインアクトArtist vs Poetの登場だ。フロントマン脱退というバンド存続の危機を乗り越え、多くの再来日の声に応えた待望の一夜。Tarcyがいた頃からのポップネスをそのままに、さらに普遍的なアメリカンロックへと進化した彼等。前日のインストアで聴いたアコースティックなサウンドアプローチは勿論だが、さすがにバンドサウンドとしては前の方が良いのかなぁ…なんて考えは見事に吹き飛ばされてしまう。一曲目がいきなり初期の名曲 “Runaway” だったのには面食らったが、続く “Whiskey Problems” では新生Artist vs Poetを象徴するテイストをフィーチャーし、“Ready To Roll” ではエモポップの王道ともいえるサウンドとコーラスワークを披露。今回の来日に合わせてリリースされた国内盤のタイトル曲である “Keep Your Secrets” (本当にFall Out Boy辺りのファンにも聴いてもらいたい楽曲!)で会場にうねりを起こし、続くは会場先行で販売されていた最新作「Sake Of Love」からいち早く “Made For Me” を披露。高揚感のあるバラード “Hang Around” や、ディズニー作品で使われていてもおかしくなさそうなあまりにも切ない名バラード “Break” といった、「動」の後にはさまれた「静」の要素が強い楽曲も音源以上にエモーショナルに届けるスキルは見事。“Runaway” だけかと思いきや、ここで再びTarcy在籍時の1stアルバム「Favorite Fix」から “Adorable” まで披露され、会場のピースフル感は最高潮の中、個人的に屈指の名曲だと思っている “Stay” へ。他の楽曲とはやや表情の異なる切ないマイナーコードから一気にキャッチーに突き抜けていくサビへ流れていく同曲は、こうして生で聴いた時の破壊力は尋常ではない。
フロントマンのJoeはこの日あまり喉の調子が良くなかったらしいが、どこがじゃい!と思わず突っ込みたくなる程の声の伸び(笑)。We The Kingsの最新作にも通じるトロピカルな要素を取り入れた “Crazy About You” から、ラストは最新作からの1stシングルにもなったダンサブルな “Close To You”。ステージにはWilliam Beckettも登場しサビのバースを唄うという豪華なラストで締めた。新体制後のパフォーマンスをこうして初めて生で見た訳だが、想像以上、音源以上に素晴らしいものを持っているバンドだ。これからまた全米で躍進する可能性が大いにある才能の塊だ。
ラスト、いよいよ大トリWilliam Beckettが登場。前回ソロ初来日ではアコースティックでのLiveだったが、今回はなんと先程出演したArtist vs Poetをバックバンドにフルバンドでのパフォーマンス。Artist vs PoetのフロントマンJoeがギタリストに、ギターを務めていたDylanがベースにシフトチェンジしてステージに登場した。最新作「Genuine & Counterfeit 」のオープニングトラック “Pick Up the Phone” からの1st「William Beckett」のオープニングトラック “Scarlett (Tokyo)” で華やかに幕を開け “Time for a Sign” へ。同曲はBEYOND[THE]BLUE TOUR 2012で一緒にツアーを回った事により絆を深めたMayday ParadeのフロントマンDerek Sandersがフィーチャーされた一曲。「Derekの登場です!」と袖に向かって拍手すると会場は困惑。するとニットをかぶったJoeが登場し「Derekだよ!」というクダリにオーディエンスはバカ受け(笑)。Williamはテレパシー送ってみたが、Derekは向こうのバスルームにいたようだ(爆)。今回はジョークだったが、いずれ二人の共演を見れる事を心から願う。「新作で一番気に入ってる曲」と披露された、まるで広がる海原を彷彿とさせるサビを持つ “By A Side”。そして歌詞の通り雨模様の空から光が射し込んでいく様なメロディーラインを持つ “One in the Same” はあの会場にいた全てのオーディエンスが音源以上にその情景を浮かべていただろう。
ここでArtist vs Poetのメンバーが一度下がり、Williamのアコースティックソロタイム。ここで披露されたのはThe Academy Is…の楽曲だ。若い世代はもしかしたら知らないかもしれないが、彼は元々2003年に結成されたこのThe Academy Is…というバンドのフロントマン。Fall Out BoyのPeteに見出された事をきっかけにFueled By Ramen/ Decaydance Recordsからデビューし、SUMMER SONIC 2007の出演、そして2008年にはDecaydance FestivalでCobra Starship、The Cab、The Hush Soundを率いて来日も果たしている。この日のアコースティックは1st「Almost Here」から “Attention”、そして全米ビルボード17位を獲得した3rd「Fast Times At Barrington High」から “About A Girl” が披露され、会場は大きな合唱に包まれた。翌日のツアーファイナルでは “Slow Down” も加えてパフォーマンスされ、初期からの彼のファンは大満足だったことだろう。
再びArtist vs Poetのメンバーが登場し “Hanging on a Honeymoon”、骨太なサウンドと甘美なメロディーが共存する “Dig A Hole” を披露。Williamの声は流石と言いたくなる程に伸びやかで、さっきまではフロントマンだったJoeもWilliamの横で伸び伸びと楽しそうにギターを弾いている。その姿は前回の来日と重なり微笑ましい。アンコールは「Hey!」の掛け声と共にオーディエンスが手を上げるシングル “Benny & Joon” で、会場全体が一体になり終了した。
元々同じアメリカ出身とはいえ、違う地に住んでいる二組のアーティストがこの来日の為に個別に練習、そして日本に到着してからスタジオで初の音合わせ(たったの3時間!)を行い、後は移動中の車の中でのやりとりと当日のリハーサルだけであのステージを作り上げてしまうという天才っぷり。今回のツアーに参加した方はお分かりかと思うが、そん舞台裏があったなんてことは微塵も感じさせない完璧な演奏だった。是非またこの共演をこの目にしたいと同時に、ここ日本は勿論、本国アメリカでもこの二組で面白い事をやってくれるのではないかと淡い期待を寄せていたり(笑)。前週に続きこの日の前日は東京も大雪を観測したが、終演後の会場内は暖かい笑顔で溢れていたのが印象的な一夜となった。
セットリスト:
– Artist vs Poet –
Runaway
Whiskey Problems
Ready To Roll
Keep Your Secrets
Made For Me
Hang Around
Break
Adorable
Stay
Crazy For You
Close To You
– William Beckett –
Pick up the Phone
Scarlett (Tokyo)
Time For A Sign
Oh, Love!
By Your Side
One In the Same
Slow Down (The Academy Is…)
About a Girl (The Academy Is…)
Hanging on a Honeymoon
Dig A Hole
-Encore-
Benny & Joon
テキスト:鎌田 裕司 a.k.a. わいけ
写真:Nobuya Fukawa