【REVIEWS】Yellowcard – Lift A Sail 〜 未来へ帆を張る、激変の一大航海記 〜
Released: 10/8/2014 – KICK ROCK INVASION / Razor & Tie
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今後の彼等の方向性を考える意味でも、ターニングポイントになる作品だ。間違いなく、これまでの彼等の作品を一枚でも聴いた事のあるリスナーは驚く事だろう。2010年に再始動後、「When You’re Through Thinking, Say Yes」、「Southern Air」という大傑作を二枚立て続けにHopeless Recordsからリリース。ここ日本でも相変わらずエネルギッシュなステージングを見せつけてくれた彼等が、今作よりFinchやChiodos、Alesana等が続々と移籍を果たしたRazor&Tieと契約。移籍後初作品であると同時に、バンド結成時から屋台骨を支えてきた天才ドラマーLP脱退後初となる作品でもある。
まず全体を聴いて驚くのは、疾走している楽曲が一曲もないという事だ。ゆったりと、力強く、そして高らかに鳴らされる “Transmission Home”。分厚いギターとSeanのバイオリンの音色、繊細なメロディーが折り重なっていく “Illuminate”。バンドが昨年フェイバリットにも挙げていたMemphis May FireのフロントマンであるMatty Mullinsをフィーチャーし、アリーナ級の大陸的サウンドと共に二人が歌い上げる “The Deepest Well”。アンビエントかつ荘厳なサウンドスケープから一気にバンドサウンドへと展開していく “Fragile And Dear”。今作の中で強いて言えば、なレベルで疾走しHoobastankの様なメジャー感あるメロディーに展開する “My Mountain”。声高らかに歌い上げられるコーラスと、YC節満載の哀愁感あるメロディーラインが絡むタイトルトラック “Lift A Sail”。そしてラストにはピアノの旋律のみで、故郷への想いを綴った “California”。決してこれまでの彼等のバラード曲を集めた様な作品ではなく、今後の自分達を考えた上での並大抵ではない想いを込めた、一大オルタナティヴ・ロックアルバムとなっている。そしてそのバンドの決意を踏まえた上で、LP脱退というとてつもなく大きな穴を埋めたex.Anberlin、Nate Youngのスケール感溢れるドラミングも見事だ。
文頭でも記したが、これまでの彼等の作品とはベクトルが全く異なる故に前の方が良かったと思うリスナーも多くいる事だろう。このレビューを書いている時に頭に一つ浮かんだのだが、ポップパンク/メロディックのバンドでこうした激変した作品を作ったバンドでHit The Lightsというバンドがいる。偶然か必然かRazor&Tieから当時リリースした「Invicta」という作品もまた賛否両論あったが、数年たった今、結果その作品が好きだというリスナーも数多くいるのだ。確かに即効性はないかもしれないが、時間をかけて聴く事で最もお気に入りの作品になる可能性もあるという事、そして何よりもバンドがこういうサウンドを作った意味を考えると、現時点でジャッジは出来ないし、したくもない。じっくりと腰を据えて向き合いたい。
テキスト:Yuji Kamada