【REVIEWS】Transit – Joyride 〜 逆境を乗り越えて辿り着いた至極のエモーション 〜
Released: 10/21/2014 – Rise
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006年に米マサチューセッツ州ボストンで結成と、今考えてみると意外に活動歴も長くなってきた彼等の5枚目となる最新作。初期こそエモーショナルなメロディックハードコア要素の強かったバンドだが、現在所属するRise Records移籍第一弾となった3rd作「Listen & Forgive」でそれまでのサウンドから一気にシフトチェンジ。熱さは残しつつも、バンドのもう一つのルーツであったAmerican Football、Saves The Day、Death Cab For Cutieといったエモ/インディーロックからの影響を前面に打ち出し、後続のバンド達に大きな影響を与えた。フォロワーも数多く出てきたが、彼等ほど引き出しが多くなかったのかアウトプットの仕方が上手ではなかったからなのか、今となってみればこの絶妙な立ち位置のバンドはパイオニアである彼等だけとなったのも必然であろう。その後もさらに温もりある唄心を追求した4th作「Young New England」をリリースし、そのポジションを確固たるものへ。しかし2014年に入り、結成時からのメンバーであり印象的なアルペジオを奏でてきたギタリストのTim Landersが脱退。2011年のJoseph Lacy脱退に続きオリジナルメンバーのギタリスト失うという最大の危機に直面してしまった。
正直今回の脱退でTransitの危険信号を感じたリスナーは少なくなかったと思うが、結果彼等は素晴らしい作品をこうして僕達に届け、バンドが叩き上げてきた底力を証明したのだ。プロデューサーは過去2作やTim LandersがThis Time Next YearのメンバーとスタートさせたMisser等を手掛けてきたGary Cioffi。プロダクション面に関しては、前作までの世界観を損なう事無く新作を制作出来たという点でこれ以上の人選はなかったといえるだろう。2004、2005年辺りに隆盛を誇ったSpitalfield、Acceptance、The Early November辺りの東海岸エモバンドが持っていた特有の刹那と夜感、そして彼等らしい絶妙にキャッチーなサビを融合した名曲 “The Only One”。インディーロックの持つ多幸感とポップパンクのシンガロングパートを共存させた “Sweet Resistance”。木漏れ日の様な穏やかな等身大のメロディーに、ほっこりと心温かくなる “Ignition & Friction” や “Pins and Needles”。Driver Friendly辺りともリンクしたインディー感と爽快なパワーポップ要素を打ち出した “Saturday, Sunday” や “Too Little, Too Late”、“Rest to Get Better” 等、サウンド全体の雰囲気だけで持っていくのではなく一曲一曲メロディーラインが過去最高に際立っているのが印象的だ。
メンバーがマイナスになったとしてもこうして異なるサイクルで軌道修正をかけ、さらに素晴らしいものを産み出していく様を「無謀」 と形容する彼等のシニカルな視点もまた相変わらずで微笑ましい。