【FEATURES】MergingMoon, 1st EP「怨-eN-」インタビュー 〜全曲がリード曲、活動休止を経た集大成〜
APフリーペーパー9月号掲載予定!
「36 Bands You Need To Know 2015」にも選出されたMergingMoonが、1st EPとなる「怨 -eN-」を完成させた。約1年の活動休止期間を経て、新たなメンバーを迎え入れ制作された本作には、バンドの今後の可能性を感じさせる濃厚なラウド/ホラー・サウンドが凝縮されている。全曲リード・トラックという心持ちで作品を創り上げたというメンバーに、EP「怨 -eN-」に対する想いから制作の裏話、そしてバンドのコンセプトとなっている「ホラー」や「妖怪」という存在についてなど、たっぷりと語ってもらった。
“シャウトはメタルコアやラウドロックが好きな人が、気持ちよく聴けるような部分に入れているし、逆に気持ち悪い思いをしてほしい部分には、クリーンヴォーカルや同期を激しく入れたりしたんです”
──今作「怨 -eN-」は、活動再開後初のEPとなるんですよね。
Tatsuya:そうですね。ただ作品の構想自体は、2年くらい前からあったんです。以前のバンドとしての体制が変わった直後くらいから、デモ作りは始めていました。
──2年ですか。
Tatsuya:はい。そこから1、2曲完成に近づいてきたところで、メンバーも現在の体制に固まっていったんです。
──2014年の11月のシングル “Infernal Error” の発表と共に、活動休止からのカムバックを果たしました。
Tatsuya: “Infernal Error” はバンドの体制が変化していく段階ですでに作っていた曲でしたし、そのときには既に「次はこういうことがしたい!」という明確な目標が、自分たちの中で膨れあがっていたんです。そんな意識の中で、次世の中に出すならば、絶対にこの曲だろう、と。
──“Infernal Error” は、バンドの意思表示でもあったんですね。
Tatsuya:メンバーも変わりましたし、新しいことをどんどん取り入れていきたいという気持ちが強かったんです。その想いはすべて、この曲につぎ込みましたね。
──前作「Kamikakushi」は日本人形を模したアートワークも印象的な、ジャパニーズ・ホラーをテーマにした作品でしたが、今作「怨-eN」は前作と比べると、より幅広い要素を持つサウンドスケープを感じました。
Jun:「Kamikakushi」のときは、とにかくわかりやすいジャパニーズ・ホラーを、というコンセプトでした。今回はその要素も踏襲しつつ、新しいメンバーの個性もしっかりと融合させて、それらをすべて音に反映させていきたい、という意識が強かったんです。「怨 -eN-」では今まで作曲に参加していなかったメンバーも曲作りに加わったりしているので、その点からも各個人の良さが表れていると思います。
──その「各個人の良さ」や「個性」を、具体的に伺っても良いですか?
Jun:MergingMoonはメロディック・デスの要素もありますけど、全員がIn Flamesが大好きで、いかにそこへ近づくか、という目標を掲げているわけではなくて。もちろんIn Flamesも大好きなんですが、メンバーはそれぞれ、全然違うジャンルが好きだったりもするんです。バンドとして核なるものはあるけれど、その上で、各々の好みは活かしていこう、と。
──皆さんはどういったジャンルから影響を受けて来たのでしょうか。
Yusuke:その好みを知るために、今回メンバー全員でそれぞれ自分のベスト・アルバムを5枚持ち寄る、という試みをしたんです。そこで挙がってきた作品を聴き込んでから、EPを作ろう、という話に成って。いざみんなで出し合ってみたら、被っているアーティストが全然いなかったんですよ。
──どんなアーティストや作品を挙げたんですか?
Tatsuya:僕はディズニーとか、映画音楽ですね。そこはみんなとは絶対に被らないだろうな、と思っていました。それとThe Agonistとか、SlipknotといったNu Metalのバンドも多かったです。
Yuto:SoilworkとかEvanescence、あとは先日対バンもさせていただいたDreamshadeです。
Saba:A Perfect Circleですね。ミュージック・ビデオのアイディアにも活かされています。
Jun:Nine Inch Nailsや凛として時雨、とかですね。
Suzu:僕はMeshuggah、Between The Buried And Meを挙げました。
Yusuke:System Of A Downと、世界で一番好きなMegadethです!
──今挙げてもらったバンドの音楽性、それぞれがMergingMoonのサウンドに反映されていますよね。
Tatsuya:だと嬉しいです。実は僕は、個人的にコンセプトものがすごく好きなんですよ。だから前作の「Kamikakushi」では、ガチガチのコンセプトのもとにアルバムを作っていった。でもバンドが新体制になったときに、新しいことをどんどん取り入れていきたい、という気持ちが強くて。だから次はコンセプトものはやめよう、と思っていたんです。
──違う要素を押し出したかった、ということでしょうか?
Tatsuya:そうですね。とにかく今までとは、逆のことを試したかった。「怨 -eN-」は全曲リード曲といった感覚で、印象の強い楽曲を詰め込みたい気持ちが強かったんです。活動休止期間中は、作曲について学ぶ時間もたっぷりあったし、全員からのアイディアを集中的に集める期間でもあった。今作は、その集大成的な存在なんです。
Jun:敢えてコンセプトをつけずに幅を持たせることが、今作のコンセプトでしたね。
──制作自体はいかがでしたか。
Saba: “Infernal Error” と “Baby One More Time” のカバーは先にできていたんですけど、その他の曲はほぼ同時進行ででき上がっていったんです。ミュージック・ビデオになっている “Manifestation” は、最後にできた曲なんですけど。
──“Manifestation” はリード・トラックですよね。
Tatsuya:この曲はもともと、トラックリストの中に無かったんですよ。 “Manifestation” 以外の曲をすべて録り終わったときに、エンジニアさんに「今作では、ミュージック・ビデオも作ろうと思うんです。」という話をしたんです。そうしたら、「映像を作るなら、ちゃんとそのための曲があったほうがいい!」とアドバイスを頂いて。そこからメンバーで再度話し合って、EPの発売がどんなに遅くなろうとも、ミュージック・ビデオを作るのであれば、それ用に曲を作った方が良いだろう、という意見が一致したんです。
Jun:「怨 -eN-」は全曲シングルにしても良いくらいの意気込みで作ったので、いざミュージック・ビデオを作るとなったときに、どの曲もハマりそうだと思ったんですよ。でもそれは裏を返すと、ミュージック・ビデオを作る曲に対して、メンバーそれぞれの意見が食い違ってしまう可能性もあった。 そんな気持ちでいてもしょうがないので、レコーディングはいったん終わっていたんですが、ビデオ用の曲を作るために再スタートして。二ヶ月くらいかかりましたね。
──レコーディング自体はスムーズに?
Yuto:実は、初日に事故に遭いまして……(苦笑)。
──事故ですか・・・?
Yuto:はい。車が半壊して、廃車になっちゃったんです。
Tatsuya:顔が傷だらけで、医者に行こう、って話になっていたんですけど、「いや!今日はギター録りがあるのだ!」って使命感に燃えていて。
──そうだったんですか……。
Yuto:車も人もボロボロだったので結局その日はやらなかったんですけど、それ以外はスムーズに進みました(笑)。
──今作では、ボーカロイドも使用しているんですよね。
Tatsuya: メインでがっつりと歌わせはせず、コーラス部分に取り入れています。打ち込みやストリングスのような、楽器の一部として使っている感じです。昨今ではボーカロイドも、日本の文化の一環ですよね。日本に対する一般的なイメージ、いわゆる「スシ!サムライ!」みたいなイメージから脱皮できるんじゃないか、と思って、ボーカロイドも入れてみたんです。
──一方で、 “die in imaginarium” といった楽曲からは、ミクスチャー的な要素も強く感じます。
Jun:この曲は僕が作ったんですが、最初はもっとBon JoviやNickelbackのような、アメリカン・ロックのテイストが強い楽曲だったんです。それが完成してSabaさんに仮歌を入れてもらったら、あまりにアメリカン・ロック色が強過ぎてしまって……。
Saba:Junさんからは特に細かい注文もなかったので、自分自身も大好きなNickelbackやThree Days Graceあたりを意識して、渋めの感じの歌を返したんです。そうしたら何の返信もこないまま、Junさんは急にTatsuyaさんとやりとりを始めて……(笑)。
Jun:僕とSabaさんが好きなテイストのアメリカン・ロックが、すごく似ているんです。その結果、トゥーマッチになってしまって(笑)。
Tatsuya:こっちには「ここはラップで」とか「何秒〜何秒はこんな感じで」と細かい指示が来たので、その通りに作っていったんです。そのあとに、Sabaさんが作ったものと僕が作ったものを聴き比べて、おいしいところ取りをしていきました。この方法は、他の楽曲でもけっこうやってるんです。
──初回盤のラスト・トラックには、Britney Spearsの “Baby One More Time” のカバーが収録されていますね。
Tatsuya:これ、実はアミダくじで決めたんですよ。
──アミダくじですか……!
Tatsuya:はい。カバー曲の候補はたくさんあったし、それぞれの楽曲に対して、「この曲で、新生MergingMoonのこういった部分を見せたい」という要望があった。最終的に決めかねて、Suzuさんにアミダくじをしてもらったんです。
──他の候補は何があったんですか?
Yusuke:Arctic Monkeysが最終候補まで残っていましたね。
Jun:The Musicもありましたよ。
Saba:Michael JacksonやStingとか、女性ヴォーカルでいうとStacie Orricoとかt.A.T.u.も挙げていましたね。
Tatsuya:色々とチョイスはあったんですけど、“Baby One More Time” って、Britney Spearsが恋愛ソングをじっとりと歌いあげていますよね。そんな曲をSabaさんのカッコいい声で、渋くイカつくシャウトも交えながら歌ったら、歌詞の世界観がもっと過激な感じになるんじゃないかな、と。
──“Baby One More Time” もそうでしたが、本作はヴォーカルの強靭さや鮮烈さも大々的にフィーチャーされていますよね。
Tatsuya:自分たちが持っているものを活かしていくなかで、自然とそういった部分も意識するようになりましたね。今作でもクリーンもシャウトも入れていますが、それぞれの配置には気を使いました。シャウトはメタルコアやラウドロックが好きな人が、気持ちよく聴けるような部分に入れているし、逆に気持ち悪い思いをしてほしい部分には、クリーンヴォーカルや同期を激しく入れたりしたんです。いわゆる、人から好まれる音の作りからあえて外してコントラストをつけることで、それぞれを目一杯引き立たせたかったので。
──なるほど。ではバンドについても伺わせてください。MergingMoonのコンセプトは「妖怪コア」ということですが、このアイディアはどのように生まれていったのでしょうか?
Jun:僕らがバンドを始めるとき、メタルやデスメタルというものに対して、悪魔崇拝やアンチクライストといったイメージや、ホラー的な要素が強い印象があったんです。でも、日本のバンドで、宗教的にもみんながバラバラな中で、キリスト教的な悪魔をテーマにする気もしないし、日本には日本のホラー、例えば妖怪というものがあるよね、みたいな雑談をしていたんです。そんなとき、日本の妖怪をネットで検索したら、マジムンという沖縄出身の妖怪がいることを知って。当時沖縄出身のメンバーもいたので、合点がいったんです。
Tatsuya:バンド名を英語で発音したときに、マジムン、と呼んでもらいたい、という願望もありました。
Jun:そこからずっと、歌詞の部分でも妖怪的なものを意識していて。アルバムのアートワークを日本人形にしたりしていたのも、そういった要素を反映していたんです。ただ、今まではバンドのコンセプトをハッキリと言葉では表してこなかった。でも自分たちがどんなバンドであるのか、ということを明確に伝えた方が、わかりやすいかな、と思いまして、今回から「妖怪コア」という言葉を打ち出しています。
──皆さんの根本には、ホラーがあるんですね。
Tatsuya:そうですね。ただ十字架を逆にしたところで、日本で怖がる人ってあまりいないと思うんです。それより、髪が伸びる日本人形のほうが、不気味さがありますよね。そういったジャパニーズ・ホラーって、海外にも輸出されて、きちんと成功もしている。ということは、世界の人々もそれが嫌いなわけではないと思うんですよ。メタルバンドがホラー・サウンドをならすのに、外国の文化をメインにするのも、自分たちにとっては何かが違う感じがしたんです。だから、自分たちに元々あった妖怪というコンセプトを全面に押し出していこう、と思いました。
──いよいよ新生MergingMoonが本格的に始動したわけですが、最後に今後のヴィジョンや目標などを教えていただけますか?
Tatsuya:9月のリリースイベントや、12月4日に開催されるワンマン公演を成功させて初めて、MergingMoonとして真の意味で活動再開を成し遂げられると思うんです。なのでEPをリリースしてからは、そこに向けて集中していきたいですね。
MergingMonn「怨 -eN-」
In Stores Now
Orochi Records
MGMN-0006 / ¥1,852(w/o tax)
Interview: Leyna Miyakawa